人が食事をするという事は、命を維持していくために必要な栄養素を取ると言う事だけではありません。食により欲求を充足する事で、生きる意欲や生活をしていく喜びを感じることが出来ます。食事をすることで活力が生まれ、病気を持つ患者さんでは、闘病意欲を高めたり、リハビリや治療への取り組みを前向きにすることが出来ます。
そして、私たち看護職者が出来ること、麻痺のある患者さんに対し、麻痺を受けとめ食事に対する困難さや不安を軽減し、スムーズな摂食行動を再獲得出来ることではないでしょうか?
食事支援により、麻痺に対する苦痛軽減への試みを考えてみましょう。
食事援助
・認知機能
疾患による後遺症や、認知症の発症により、摂食行動が困難となる場合があります。
脳血管障害による失認、失行、認知力低下により、食事をすることを忘れたり、食事動作が行えなくなったり、食べると言う事を認識できない場合があります。また、疾患による麻痺の出現で、利き手、効き腕が効果的に動かず、行動に移せない場合があります。
そして、半側空間無視などの症状により、ある一定箇所にある器を認識できず、その方向にある食事だけ食べていないという事もあります。
高齢化による認知症患者も増加しています。
認知症では、食べると言う行動、食べ物と言う認識が失われ、食べることが出来ないことがあります。
・姿勢
患者独自の身体的特徴をとらえます。これまでの生活背景による身体のゆがみや座位保持機能、円背や背筋の湾曲、身体や筋肉のゆがみ、麻痺による身体的変化が認める場合があります。
身体の傾き、麻痺による姿勢の変化などを捉え、傾きがある場合は枕や体位変換クッションを利用して正しい姿勢が維持できるよう介入します。認知機能のアセスメントにより食事介助の介入の必要性を考慮する必要があります。
・食形態
高齢による嚥下機能の低下、脳血管障害による嚥下筋麻痺や摂食筋麻痺があり、普通食の摂取が困難な場合があります。高齢者は特に、生理機能も低下している為、唾液量の低下なども関与し、呑みこみにくい特徴があります。
嚥下機能、認知機能を正しくアセスメントし、その患者さんが食べられる食事形態に変更する事が必要です。
しかし、ペースト状でないと嚥下困難な患者さんでも、認知機能が高く、「そんなもの食べたくない」と訴えられる患者さんもいて、その問題への対応もしなければなりません。
・補助具の使用
利き手の麻痺により自力での接触に難しさを感じる場合があります。
軽度の麻痺であれば、補助具の使用で利き手での摂食を叶えられることがあったり、慣れない反対側での摂食をしなければならない場合は、右利きの場合、左利きようの食器や補助具への変更をしなければならない場合があります。
食事は、なるべく自分のペースで、自力で食べたいと言う思いがあるものです。
食事環境を整えることで自力摂取を叶えることが出来るのであれば、自分のペースでの食事をして貰えるよう看護職者が工夫、個別性を考慮する関わりが必要です。
安全な食事環境
- 頭部は、伸展・後屈しないよう枕やバスタオルなどを利用して「頸部前屈」に体位を整えます。
- 座位にて摂食する際は、床に量菓子がしっかり着地して食べられるよう椅子やベッドの高さを調整します。
- 麻痺側への傾きを是正するために、麻痺側にクッションやまくらを置き、体位の崩れが無いよう工夫します。
- 食事を摂る為に、スプーンやフォークの利用を考慮し、握りやすいものや、滑り止めの付いた食器を準備します。
- 麻痺側に食事が入れば、残渣の原因となる為、健側に食事を入れる。
- 麻痺のある患者には、付き添い五円等の異常時に早期発見対処が出来るよう備えます。
- 左脳病変により半側空間無視のある患者は、右の食事を認識しづらくなっている為、左側に食事を寄せて認識できるよう工夫する。
まとめ
疾患の部位や状態により麻痺の状態や、支援の重度・軽度様々です。
個別性を理解し、その人に合った支援方法を考慮する必要があります。
患者によっては、麻痺や疾患の受けとめが出来ておらず、アプローチに対して拒否的になる場合があります。その場合でも、危険回避のために無理強いしない関わりの継続と、心のケアを行いながら、安全な食行動がとれるよう支援していく必要があります。
高齢化による疾患と認知症の併発している困難事例も多くあります。一人一人の状況を理解して関わっていくことが必要です。